園長日記
園長日記のNo.18で、私は朝来市の富森静子さんから提供された写真が同市柿坪で撮影されたものだと書いた。その後、コウノトリの古い写真や資料を数多く収集されている中村英夫さん(豊岡市出石町在住)から、「あの写真は、柿坪で撮影されたものではなく、出石鶴山で撮影されたものではないか」というご指摘を受けた。その理由は、富森さんの写真(No.18参照)と「出石鶴山」とキャプションの入った市販されていた絵葉書(写真1)を比べてみると、背景の山の形や伐採具合が全く同じであること、さらに前方左に写っている枯れ枝が同じであること。さらにさらに、コウノトリの親が羽を開いている様子やヒナたちが餌乞いしている恰好が同じであることだ。ただ少し違うのは、富森さんの写真の枯れ枝の方が、広い範囲まで写っていることから、富森さんの写真がくだんの絵葉書を複写したものではないことが分かる。それに富森さんの写真の方が絵葉書の写真より、はるかに鮮明である。それに、「出石鶴山」とキャプションが入った絵葉書が売られていた時代には、出石鶴山に茶店があり、誰もが実際の風景と絵葉書とを比べることが可能であったことから、他所で撮影した写真を使って出石鶴山というキャプションをつけることは考えにくい。これらのことは、どうも富森さんの写真と絵葉書の写真は、同一の写真を複写した可能性が高く、そのもとの写真は出石鶴山で撮影されたものらしい。
それでは、撮影された年であるが、それについても、中村さんが国立国会図書館から興味ある資料を発掘された。それは、明治44年(1911年)の雑誌『日本実業』の6月号に、「天下の瑞兆出石鶴山の双鶴松上に雛子を慈しむ」と題する創刊50号記念記事を双輪生という記者が書いたものだ。この記事には、明治末に出石にあったコウノトリのコロニーの様子が詳しく述べられているが、目を引くのは、記事につけられた1枚の写真である。この写真は残念ながら著作権の問題があってここに載せることができないが、驚いたことに、背景の山の形や、伐採跡のはげ具合や、コウノトリの巣の位置や、周りの松の樹形が、絵葉書や富森写真とほぼ同一なのである。さすが写っている親鳥やヒナの姿勢は異なるが、この巣は間違いなく、今回問題にしている写真の巣と同一である。
さらに、驚愕に値するのは、よく出てくる枯れ枝(多分マツだろう)の枝ぶりが、絵葉書や富森写真の枝ぶりとほとんど変わらないのである。冬に多雪のこの地域で、このような枯れ枝が何年間も同じ姿を保っているとは到底考えられないので、絵葉書などの写真も、1911年前後のごく限られた期間に撮影されたものと推測される(ひょっとするとすべて同一のカメラマンによって撮影されたものかもしれない)。例の「但馬名勝出石鶴山絵葉書」のキャプションには、「天然記念物」と書かれていることから、ここのコウノトリが天然記念物に指定されたのが大正10年(1921年)だから、その頃この写真は撮影されたものだと思われがちだが、実は、撮影そのものは10年も前にされていたのではあるまいか。そして、ひょっとすると、天然記念物指定記念にこの絵ハガキは発売されたのか知れない。また、富森さんが保存されていた写真の裏にも、大正10年と書かれていたことは偶然の一致とは思えない。
いずれにしても、No.18に私が掲載させていただき、軽率にも柿坪で撮影されたと書いた写真は、出石鶴山で撮影されたものであり、撮影年度は明治末期にさかのぼるであろうというのが今回の訂正文である。ただし、No18の紹介写真とその裏書との対応関係が否定されることになっても、その頃に柿坪でツルの巣ごもりを見たという富森さんの記憶が否定されたわけではないことを書き添えておきたい。
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