園長からのごあいさつ
園長からのごあいさつ
兵庫県立コウノトリの郷公園からみなさんへ
兵庫県立コウノトリの郷公園は、「公園」の名が示す通り、ここを訪れる皆様にコウノトリを中心とする、身近な自然に触れる機会を提供する施設です。他方世界で唯一、コウノトリCiconia boycianaの野生復帰に特化した研究機関でもあります。
2005年に郷公園が始めた再導入(かつて生息していた地域での飼育個体の放鳥)により、コウノトリは豊岡市内で野外繁殖を開始し、それが現在では全国各地に広がりつつあります。また国内の野外個体数は既に250を越えています。そして近年の増加は、直線的なものから指数関数的なものに変化し、野生復帰は新たなステージに突入したと考えられます。
このことは、これまでの「保護」から、「保全」への発想の転換が必要であることを意味します。ちなみに保全とは、コウノトリ個体群の独り立ち、つまり「持続可能性」を担保することです。
ところで保全には「人のこころ」が伴わねばなりません。これまでは、国の特別天然記念物・希少種として皆さんに可愛がっていただいたコウノトリですが、「真の野生動物」になる時期が近づきつつあると考えられます。「野生動物は、ほどほどに死んでいくものだ」という認識の共有が必要になりつつあるのです。
2014年には郷公園敷地内に兵庫県立大学大学院「地域資源マネジメント研究科」が開設され、コウノトリを支える生物集団とこれらを育む生息場(いわゆる環境)の保全、その基盤をなす大地の特性、更にはかつてコウノトリの生息を支えた社会と、その歴史についても高度な研究が行われるようになりました。一方、山陰海岸ジオパークの海岸線に沿ってコウノトリの繁殖が広がりつつあり、「地域資源の活用による保全と地域活性」という、ジオパークにも共通する課題が見えてきました。
これからの時代におきましても、地域住民の皆様はもとより、関係機関のさらなるご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
兵庫県立コウノトリの郷公園 園長
江崎 保男(EZAKI Yasuo)
《略歴》
1951年 大阪市生まれ。1976年 京都大学理学部卒業、1985年 同大学院理学研究科博士課程修了(京都大学理学博士)。兵庫県立人と自然の博物館次長(研究系)、兵庫県立大学自然・環境科学研究所長・教授、同大学院地域資源マネジメント研究科初代研究科長・教授、兵庫県立コウノトリの郷公園統括研究部長等を歴任。2019年から現職。
専門は動物生態学で、森林から河川・ダム湖・水田・湿地・都市まで幅広く、陸域の生態学研究および保全に取り組んでいる。日本鳥学会15代会長、応用生態工学会7代会長。国土交通省・環境省・兵庫県などの各種委員会委員をつとめる。
主な編著書に「生態系ってなに?-生きものたちの意外な連鎖」「自然を捉えなおす-競争とつながりの生態学」(中公新書)、「水辺の環境保全-生物群集の視点から」(朝倉書店)、「ダムと環境の科学Ⅲエコトーンと環境創出」「近畿地区鳥類レッドデータブック-絶滅危惧種判定システムの開発」(京都大学学術出版会)、「動物群集の様式(訳)」(思索社)などがある。
第20回山階芳麿賞、第70回兵庫県教育功労者受賞(2018年)。