公立大学法人 兵庫県立大学大学院大学院 地域資源マネジメント研究科

野生復帰

グランドデザイン

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 兵庫県立コウノトリの郷公園では,2011年にコウノトリ野生復帰グランドデザインを策定し,以来これに基づいて野生復帰の取り組みを進めています.以下に本グランドデザインの前書きと目次を示します.詳細は本冊【PDF】をご覧ください.


はじめに
 兵庫県が豊岡市においてコウノトリの野生復帰プロジェクトを進めていることは、国内外に広く知られるところとなった。
 平成15年3月に策定した「コウノトリ野生復帰推進計画」(以下、「推進計画」という)に基づき、兵庫県立コウノトリの郷公園(以下、「郷公園」という)において、平成17年から試験放鳥されたコウノトリが、野外で定着した後、繁殖に成功し、最初のヒナを巣立たせたのは平成19年のことである。
 そして、現在まで順調な野外繁殖が続いており、豊岡の空を自由に舞い、野外で生活するコウノトリ(以下、「野外個体群」という)は39羽(平成22年度末)に達している。

 ここでの「野生復帰」とは、いったん野外で絶滅した種を再導入(re-introduce)し、個体群を再確立(re-establish)することである。
 コウノトリの場合には、わが国の野生個体群が昭和46年に豊岡で絶滅したが、それ以前に兵庫県で捕獲し、ケージ内で約20年間にわたって飼育していた国内個体群の系統が、子孫を残すことなく途絶えた。
 その後、ロシアから兵庫県に譲渡されたペアが郷公園において、平成元年に初めて 飼育下繁殖し、それ以降、飼育下のコウノトリ(以下、「飼育個体群」という)が増え、100羽を超えるようになり、平成17年の試験放鳥に至った。
 試験放鳥は推進計画に基づいて行われたが、この計画では1)遺伝的な多様性への配慮、2)生息環境の整備、3)関係機関の連携、4)普及啓発の推進、そしてこれらを5)アダプティブ・マネジメントの手法を用いて行うことが基本方針と定められた。そ して、これらに関する研究と実行は、計画策定後、主に試験放鳥後に行われることになった。

 本グランドデザインは、野生復帰の目的とコウノトリの歴史を踏まえ、5年間にわたる試験放鳥により得られた科学的研究成果を検証し、これらを基に、これからの本格的野生復帰を目指した短・中期計画と野生復帰の最終ゴールを提示するものであり、平成7年に作成されたIUCNの再導入ガイドラインの発展型と位置づけられる。
 なお、このグランドデザインは、郷公園のこれまでの研究成果を基に策定したものであるが、連携する県内市町や他府県でのコウノトリの野生復帰計画に反映されることが期待される。
 グランドデザインの策定にあたっては、学識経験者で構成する「コウノトリ野生化対策会議」で4回にわたり議論をいただいた。専門的な視点から有意義な意見をいた だいた委員及び関係者の皆様に御礼申し上げる。

兵庫県立コウノトリの郷公園
園長 山岸 哲


目次

はじめに

  1. コウノトリの野生復帰の目的
    1. 野生復帰の意義
    2. 人里への野生復帰の意義
  2. コウノトリの歴史(絶滅から保護、野生復帰へ)
    1. かつての生息
    2. 絶滅から保護へ
    3. 種の保存
    4. 野生復帰に向けて
  3. 豊岡地方における生息と絶滅
    1. かつての生息環境
    2. 1960~70年代の生息環境の変化と絶滅要因
  4. 試験放鳥期間の研究成果
    1. 放鳥~繁殖
    2. 巣立ちと野外個体群の形成
    3. コウノトリの社会
    4. 営巣地の分析
    5. 豊岡の住民意識の変化
    6. 試験放鳥の成果に基づく野生復帰の留意事項
  5. 野生復帰の必要条件とこれまでの取り組み
    1. コウノトリ生息のための必要条件
    2. 野生復帰に向けたこれまでの取り組み
  6. 目標設定
    1. 短期目標
    2. 中期目標
  7. 野生復帰のゴール

おわりに

付属資料

 


~コウノトリ野生復帰グランドデザイン12年間の評価と今後の課題~

 

 このたび、兵庫県立コウノトリの郷公園では、2011年に策定したコウノトリ野生復帰グランドデザインが策定後10年以上経過したことから、その成果と課題についてとりまとめました。以下に序文および目次を示します。詳細は本冊【PDF】および要約版【PDF】をご覧ください。

                                           

(はじめに)

 令和5年、県立コウノトリの郷公園へ赴任しました。県立高等学校の校長を退職して13年がたっており、新たな仕事に就くことは、不安はありましたが、教育委員会の社会教育・文化財課時代に郷公園の計画に関与した者として、その現状には強い関心がありました。

 赴任直後に思ったことは、新たに誕生した県立大学豊岡ジオ・コウノトリキャンパスとの連携の在り方や平成23年に策定された野生復帰の基本計画であるグランドデザインの取り組みでした。当初の郷公園の研究部門は、野生復帰に向けて多方面から研究を進めていました。今もその体制は変わりありませんし、研究者の意欲も高いものがあります。今後は、コウノトリ野生復帰に特化した研究をどのように進めるかが課題だと思いました。

 野生復帰グランドデザインも策定後12年を経過しています。野生化のコウノトリが400羽近くとなった現状の中、最終目標は変わらなくても、現状の把握は必要だと思い、今年度は現状と課題を明らかにする取り組みをしました。コウノトリ野生復帰の研究拠点である郷公園は、コウノトリが、広く東アジアの鳥として生息する中、県下を中心とする今後の理論的、実践的基地としての役割が重要になってくることと思います。

 今回の報告が、今後のグランドデザインの見直しのベースになればと考えています。 

 令和6年3月

                               兵庫県立コウノトリの郷公園 園長

                                            久下 隆史

 

 はじめての野外繁殖成功から5年たらず、野外個体数が39羽(平成22年度末当時)に到達した平成23年夏に『コウノトリ野生復帰グランドデザイン』が編まれました。野生復帰事業が軌道に乗りはじめたかにみえた時期に、長期的な視野からその展望と最終的なゴールが提示されました。

 それから12年、大空を舞うコウノトリは371羽(令和4年末時点)を数え、当時の10倍におよぼうとしています。数字だけみれば順調にみえるかもしれませんが、野外で絶滅した種の再導入からはじまった本事業は、つねに未踏の荒野を歩き続ける営みでもあります。人間とコウノトリが共生できる社会の実現がゴールであることはおそらくこれからも変わらないでしょう。しかし、真の「共生」とは一体何なのか、そしてそこへ至る道筋はつねに現在をみきわめながら探し求めなければなりません。本資料は12年の成果と目下の課題をまとめ、明日の事業をすすめるための指針をみいだそうとするものです。

 令和6年3月

                    兵庫県立コウノトリの郷公園 統括研究部長・エコ研究部長

                     兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科 研究科長                      

                                          中井 淳史

     

                     【 目 次 】

Ⅰ グランドデザイン12年間の評価 

 1 短期目標「安定した真の野生個体群の確立とマネジメント」

  (1) 豊岡盆地個体群と飼育個体群の維持 

  (2) 給餌からの段階的脱出 

  (3) なわばりの適正配置 

  (4) 豊岡盆地個体群から但馬地域個体群への拡大 

  (5) 県外地域での繁殖個体群の創設に向けた共同研究 

  (6) 持続的な人材育成 

  (7) 地域づくりに向けた知識体系の創造 

  (8) 合意形成の促進 

  (9) コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル(IPPM-OWS)の設立と運営 

  (10)ジオ研究部・ソシオ研究部の拡充 

 2 中期目標「国内のメタ個体群構造の構築」

 (1) 国内メタ個体群の構築 

 (2) 生息適地の解析の推進

 

Ⅱ 今後の課題:野生復帰から人と自然の共生へ 

はじめに 

1 コウノトリ個体群に関する課題 

 (1) 個体数動向の把握 

 (2) 人工物による事故への対策 

 (3) 救護収容・死体回収体制の基盤強化 

 (4) 感染症対策 

 (5) 飼育・野外個体群の遺伝的多様性 

 (6) 生息域外保全を担保する基盤強化 

 (7) コウノトリ保全(飼育管理)技術の継承 

2 地域生物群集の保全に関する課題 

 (1) ハビタット整備 

 (2) 生態系の保全へ 

3 人間とコウノトリの共生にむけて  

 (1) 人と自然の共生にかかわる知識の継承と創造 

 (2) 自然と共生する地域づくりを担う人材の持続的養成 

 (3) 関係各機関との広域的な連携体制の構築と推進

 (4)普及啓発活動の強化・推進 

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