園長日記
『コウノトリ野生復帰グランドデザイン』(2011)では、最終ゴールが「国内外のメタ個体群構造を確立すること」が謳われている。それはかなり遠い先のことのように感じられたからか、大陸のコウノトリについては私自身も気にすることが少なかったように自省する。ところが、但馬生まれのコウノトリが大陸まで飛んでいく事態になると(園長日記No.39)、がぜん最終ゴールも視野に入ってきたことになる。 そもそもコウノトリの繁殖地はロシアの極東地域と中国の北部の湿地で、およそ3000羽が生息しているといわれている(園長日記No.01)。これらの鳥たちは冬になると、雪のない中国南部へ越冬のために渡るわけだが、郷公園の研究員たちも、中国へはまだ調査に行ったことはない。
私は、20年ほど前、北九州市の曽根干潟に冬に渡ってくるズグロカモメという希少種に個体識別用のリングをつけるプロジェクトで、中国のこの鳥の繁殖地を訪れたことがある。場所は遼寧省の双台子河口自然保護区で、海岸線寄りの「七面草」の咲き乱れる湿地で、8万平方キロ・メートルという広大な保護区だった。このときは、後にコウノトリの郷公園の園長を引き受けるとは夢にも思っていなかったので、中国側から頂いた資料は書庫の中に眠っていた。最近、その中の一つに、盤錦市人民政府新聞が出版した、『遼河口風光』と題するZong Shuxing さん撮影の写真集を見つけ出した。その表紙を見れば果てしなく広がる自然保護区の様子がよくわかる(写真1)。
ここではタンチョウも繁殖しているが、本書40ページには秋に撮影された10羽ほどの「コウノトリの群れ」が写っている(写真2)。また、同書51ページには「シロヅル」と説明文に書かれた、もっと大群のコウノトリが写っている(写真3)。
私が訪れたのは夏だったので、コウノトリは見られなかったが、中国にはこのように秋から冬にかけては、ロシアからたくさんのコウノトリが越冬に来ているのだろう。ところが、2000年ごろから、こうした越冬コウノトリの一部が春になっても北へ戻らず、送電線の上などに営巣する鳥たちが35ペアほどいることを、2010年に開催された第4回コウノトリ未来・国際かいぎのコウノトリ分科会で中国のZhou Lizhiさんが発表した。つまり、コウノトリの留鳥化が中国で起きかけているのだ。コウノトリという鳥は、かなりいい加減な鳥で、越冬に来ていても条件がいいとそこに留まり続ける習性をもつらしい。このことは重要なことで、「ハチゴロウ」も「エヒメ」も、こうした習性を示しているのであり、もっと言うならば、日本のコウノトリ繁殖個体群の起源はこうした渡り鳥の留鳥化にあるのかもしれない。韓国に飛んで行ったJ0051が出会った仲間も(園長日記No.39)、こうした越冬個体なのであろう。
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