園長日記
先ごろ福井県から1枚の写真が送られてきた。それは、「ふっくん」と「さっちゃん」によって育てられている3羽のヒナのほほえましい写真だった(写真1)。
今ではコウノトリというと兵庫県豊岡が有名であるが、福井県もコウノトリとはとても縁が深い。福井県では1961年(昭和36年)に、小浜市国富地区羽賀で2羽のコウノトリが巣立っており、これが日本の野生で巣立った最後の鳥となっている。その後、1964年(昭和39年)には、同市同地区栗田で2羽が孵化して、これも日本の野生では最後の孵化となった(ただし不幸にして巣立ちはなかった)。だから、今回の福井県での孵化は、それから数えて50年目の快挙といえる。さらに1966年(昭和41年)には、同じく栗田で福井県では最後の産卵が確認されたが、それは残念ながら無精卵だったのである。ちなみに日本の野生で最後の産卵が確認されたのは兵庫県であり、この2年後の1968年(昭和43年)で当時の城崎郡日高町上郷でのことだった。こうしてみると、福井県とコウノトリとの関係の深さは並大抵のものではない。
そこで、福井県では「コウノトリの野生復帰」を目指し、3年前の2011年に、越前市白山地区に飼育増殖施設を作り、郷公園から2羽の親鳥を譲り受けて飼育を開始したのだった。この2羽には、愛称「ふっくん」「さっちゃん」が与えられた。ところが、うまくいかないもので、翌年2012年は産卵もなく、昨年は産卵はあったものの無精卵だった。このつがいに無精卵が多い理由はすでに「園長日記」No.30に書いた通りである。
だから今年は失敗が許されない状況にあった。今年もまた無精卵であった場合に備え、郷公園と福井県では早くから「有精卵の托卵」の準備をしていた。やはり今年も「さっちゃん」の産んだ卵は残念ながら無精卵だった。そこで、6月10日には「さっちゃん」と「ふっくん」が抱いていた無精卵と、郷公園の別のつがいの産んだ有精卵3卵を交換したのである。幸い、二人は何事もなかったように入れ替えられた卵を抱き続け、それが6月14日に無事孵化したのだ(写真2)。
そもそも、こうした荒療治は「卵生」である鳥類だからこそできることであり、他人の巣に卵を産みこみ育てさせるカッコウなどを思い出していただくとよい。お腹の中で子育てをする哺乳類では、とてもできない相談で、托卵を保全に応用した例は、コウノトリが初めてではない。しかし、今回の成功は、郷公園と福井県が緊密に連携し「共同研究」として協力体制ができていたからこそ可能だったと思っている。
ヒナが孵化したといっても、浮かれてばかりはいられない。野生復帰に向けて環境整備など福井県の真価がこれから試されるのである。もちろん郷公園もできるだけの協力を惜しまないことは言うまでもない。
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