公立大学法人 兵庫県立大学大学院大学院 地域資源マネジメント研究科

園長日記

(030)立つか座るか

今年も豊岡以外の地で飼育増殖が進んでいる。飼育増殖については、多摩動物公園は長い歴史があり毎年多くのヒナが誕生してきた。その他では、兵庫県内では養父市、朝来市の拠点で、県外では福井県越前市、千葉県野田市で増殖の努力が進んでいることは、これまでも書いてきた通りだ。そして、うれしいことに、その多くの施設で産卵が始まっているが、擬卵を托卵しての産卵促進や有精卵の托卵等様々な工夫がなされてきたことも、これまた書いてきた通りで、そんなに簡単に事は進んでいるわけでもない(園長日記No.14参照)。

うまく行かない最大の理由は、ケージ内で交尾がうまくできないことだ。なぜかというと、コウノトリでは交尾はメスが立ったままのところへ、オスが乗っかり総排泄腔をメスのそれに押し付けて精子をメスの体内へ送る。言ってみれば、これがコウノトリの「正常位」だ。ところで、但馬や福井のような、冬の豪雪地では、飼育ケージをつくっても、時に雪の重みで屋根が壊れてしまう。それを壊れないように工事するには膨大なお金がかかるわけだ。だから、限られた予算の中で、飼育しようと考えると、降雪があっても構わないように、天井のない飼育ケージをつくることになる。ところがそうなると、コウノトリたちは逃げ出してしまうので、飛び出さないように飛翔に関係する風切り羽(初列~三列)の先端を、大雨覆い羽に添ってハサミで切る(写真1)。鳥類では毎年羽が生え換わるので、切る必要がなくなれば、またもとのように飛べるようになる。片翼の先端を切られたコウノトリはケージから飛び出すことはできない(写真2)。郷公園の西公開ケージのコウノトリたちも同様である。

しかし、羽根を切られたコウノトリは、立っているメスに自由に乗りかかることができなかったり、乗ってもバランスを保つことが難しく、なかなか交尾がうまくいかないのである。こうした事態に対応し、交尾の際に座り込んで伏せる行動をとるメスがいると、オスは容易にメスに乗れるようになる。だがしかし、メスが伏せると、今度は乗ったオスの総排泄腔をうまく接することが難しくなり、交尾はできても精子を送り込みずらくなる。つまり、無精卵になる確率が高くなるのだ。メスが立てば、オスは乗れないし、メスが座れば乗れても精子を送り込むことが困難になる。

だから、一番いいのは、雪に堪える頑丈な屋根つきのケージをつくり、羽根を切らないことだろう。ちなみに、野田市では地域がら降雪がまずないだろうと判断されて、屋根つきのケージが作られた。さて、今年の関東地方の異常な大雪で、この屋根は無残につぶれてしまったという(写真3)。要は限られた予算の中で、どの戦略を選択するかにかかっているわけだが、野生復帰というのは一筋縄ではいかないといういい例だろう。

(写真1)切る前の翼(左)、切った後の翼(右)

写真1 切る前の翼(左)、切った後の翼(右)

(写真2)右翼の一部を切られ飛ぶことのできないコウノトリ

写真2 右翼の一部を切られ飛ぶことのできないコウノトリ

(写真3)今年の大雪で壊れた野田市のケージ(提供:野田市)

写真3 今年の大雪で壊れた野田市のケージ(提供:野田市)


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