園長日記
コウノトリの擬卵というのをご存じだろうか?コウノトリの卵とそっくりな卵を、木とかプラスチックで作り、 白色の水性のつや無し塗料を塗ってある。ちょっと見には、人が見ても見分けがつかない(写真1)。もちろん、コウノトリにも見分けはつかないのである。コウノトリの本物の卵の重さは110~130グラムあるが、プラスチック擬卵はおおむね本物と同じ130グラムに合わせてあるのに対し、木製擬卵は約90グラム程度で、本物の70%程度で、やや軽くできている。初期にはよくプラスチック製が使われていたが、木製は容易に入手できる、固定用のビス(ねじ釘)が容易に取り付けられる、プラスチックと本物の卵を一緒に入れると卵が割れてしまうが、木製だと割れないので、木製の擬卵と本物の卵を巣の中に混在させることが可能なこと、などの理由から最近はおもに木製が使われている。そもそも、擬卵は展示用や産卵調整に使用されてきたが、最近では産卵促進に目を見張る効果をあげている。
まず、福井県の例だが、一昨年、コウノトリの郷公園から越前市に1ペアが貸与され、飼育下で鋭意繁殖が試みられてきたが、2012年の繁殖期にはついに産卵しなかった。今年も大きな期待が寄せられていたが、なかなか産卵しなかったので、巣に試しに擬卵を入れてみた。その効果は驚くべきで、福井のペアは5卵も産卵したのである。ただ、残念なことに、これらは、今年のところは無精卵だった。次は、野田市の例だが、これも産卵しないで困っていたが、4月28日に野田市のスタッフやコウノトリ種別調整者、佐藤主任飼育員も加わり、擬卵を入れる打ち合わせをした。ここでも、4卵の産卵を見た(写真2)。少々わき道にそれるが、野田の巣に擬卵を入れた当初は、親鳥はこれを巣の外へ放り出してしまったようだ。そのため、ねじ釘で巣に固定したようだ。
さらに、5月16日午前6時48分、朝来市の三保拠点で2羽のヒナが孵った。ここの場合はもっと複雑で、擬卵を入れても、三保ペアは産卵はしなかったが、なんとその擬卵をオスもメスも交代で抱卵を始めたのである。そこで、次の段階として、擬卵と郷公園で飼育しているペアが産んだ卵を交換したのだ。三保ペアは交換された有精卵をそのまま抱卵し続けて、16日に見事2羽のヒナが孵ったのである。この場合は、まったく腹を痛めない他人の卵を抱いて孵したことになる。このペアは、自分たちの子供ではないヒナに餌を与え健気に育てている。
かように、コウノトリにとって擬卵の魅力は限りなく大きいらしく、今後の繁殖促進に大きな効果が期待できそうだ。
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