公立大学法人 兵庫県立大学大学院大学院 地域資源マネジメント研究科

園長日記

(061)卵で産みたい

女優の秋吉久美子さんは若いころ子供ができた時「卵で産みたい」とおっしゃった。つまり、鳥になりたいと言われたのだ。卵で子供を産む動物を「卵生」という。これに対して母親の胎内で長期間育て胎児で産み出すのを「胎生」という。脊椎動物の進化史では、魚類→両生類→爬虫類→鳥類と卵生であり、私たちも属する哺乳類から胎生になった。鳥が卵生なのは、古くからの習性を受け継いでいるわけだが、飛翔という生活様式を採用した鳥たちにとっては、受精卵をすぐ産み出してしまうやり方は、身を軽くする上で大変好都合になっている。だから、秋吉さんは十月十日(とつきとうか)の煩わしさが避けられ、さらに陣痛の苦しみ(もっとも、これは鳥に陣痛がないと私が勝手に言っていることで、ニワトリの産卵などを見ているとかなり大変そうではある)からも逃れられるなら、「卵で産みたい」とおっしゃったのであろう。

さて、産み出される卵だが、魚は完全に水中に産み出されるが、両生類から爬虫類に向かって、徐々に水中を離れ陸上に産み出されるようになり、鳥では完全に空気中に産み出される。だから、乾燥しないように石灰質の丈夫な殻に覆われるようになる。さらに恒常的に暖めないと発生が進まないので、親が抱卵する必要がでてくる。この場合、この仕事はオスもできるし、卵が孵ると母乳ではなく現物支給の昆虫や魚などの餌で養われるので、これもオスがやってできない仕事ではなくなる。つまり、鳥は、育児に関して「男女共同参画」のはしりをしているのである。

鳥類では抱卵している卵を人工的に「すり替え」ても、大抵はそれを受け入れる。カッコウの仲間などを除き、他人に自分の巣内に卵を産み込まれるという経験がない彼らにとっては、他人の卵と自分の卵を見分ける必要がなかったので、両者を識別する能力が進化してこなかったことによる。それを悪用(?)して、私たちは、鳥類保全のためにいろいろのことを試みることができる。本来の卵と、抱かせたい卵を交換してしまうことができるのだ。どのような時にそれが必要になるかというと、産まれた卵が無精卵であった場合、有精卵にすり替えることができる(これにはメス・メス婚で産まれた無精卵も含まれる)。さらに、遺伝的に好ましくないと想定される卵(例えば姉弟や母息子などの近親婚で産まれた卵など)。さらに、もっと遺伝的多様性を増やしたい場合に新しい系統の卵と入れ替えることなどがかなり簡単にできるのだ。

簡単といっても、まず、どの卵とどの卵を交換したらよいのかを遺伝情報を駆使して慎重に判断することが重要である。これを検討するのも、先にできたIPPM-OWS(コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル)の仕事の一つであり(No.21参照)、総合的な判断と、その移動技術が必要とされる。動物園関係者や郷公園、野田市や福井県の飼育施設間では、積極的にこうした交換が現在行われている。写真1は野田市「コウノトリの里」のMさんが、コウノトリの有精卵を(有精卵かどうかは産卵後10日目以降なら検卵でわかる)、携帯用孵卵器に入れて新幹線で郷公園から運んでいるところである。どう見ても爆発物を大事そうに抱えている怪しいテロリストのようにも見えるが、車掌や鉄道警察官の尋問は幸い受けなかったそうだ。

こうした方法は、いかに保全に役立つからといって、哺乳類では簡単にできるものではないので、鳥類独特の方法といえよう。トキの遺伝的多様性を高めるために、中国からの新たな個体の移入が急務になっているが、何もコストを払って親鳥を移動することはないのだ。この方法を応用すれば安く簡単に目的を達成できそうだ。

(写真1)爆弾の入った箱を抱えているような怪しい男?

写真1 爆弾の入った箱を抱えているような怪しい男?

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