公立大学法人 兵庫県立大学大学院大学院 地域資源マネジメント研究科

園長日記

(046)最近のドローン問題について思うこと

首相官邸の屋上へ「ドローン」(小型無人ヘリ)を飛ばして逮捕された人物が出た。ご開帳中の善光寺でドローンを飛ばしてお上人様の足元に墜落させたり、国会議事堂へ飛ばそうとして注意を受けたり、浅草の三社祭に「飛ばすぞ」と脅して業務妨害に問われたり、最近ドローンがあちこちで問題化している。

実は私たちの郷公園でも、3月6日と26日に、野上と百合地のそれぞれの巣塔の上空にドローンを接近させて、産卵数の確認をする試験が、文化庁の許可を得てなされた(写真1、2)。ドローンは東京の環境コンサルタント会社「いであ株式会社」のご協力をいただいた。その結果、写真2に見るように見事な映像が得られたが、繁殖妨害の危険がないかどうか、これからも今しばらく検討を続けることにした。

(写真1)野上の巣塔の上空を飛ぶドローン(赤丸)

写真1 野上の巣塔の上空を飛ぶドローン(赤丸)

(写真2)百合地の巣塔でドローンを使って5卵を確認

写真2 百合地の巣塔でドローンを使って5卵を確認


ところで、これほどまでして、なぜ産卵数の確認が必要なのだろうか?試験放鳥後の10年で、私たちはコウノトリの繁殖に関わる、ほぼすべてのパラメターを得ることができたが(寿命についてはまだ分からない)、解っていないのは巣別の産卵数である。それは、産卵後すぐに親鳥が卵を腹の下に隠して抱いてしまうため、それを無理やり追い出して産卵数を確認しようとすると、親がいない間にカラスなどに卵を捕食されてしまう恐れがあったからである。だから、付近の山の高台などから望遠鏡を使って、親が立ちあがった際に運よく確認できる場合を除いては、ほとんどの場合に産卵数は不明であり、ヒナが大きくなって巣の外から姿を確認できた段階で、かろうじてヒナ数が解ったのである。この場合も未孵化卵の数や、孵化直後に雛が死亡してしまった場合には、孵化ヒナ数も確かなものではなかった。

では、なぜコウノトリの野生復帰を進める上で産卵数を知る必要があるのだろうか?まず、鳥類は自分たちの育雛能力に見合った数の卵をうむ、産卵前の雌の栄養状態を反映して産卵数が決まるので、将来育てることができるヒナ数以上に産んでしまうと、雌の無駄な体力消耗が起こり、長年これが続くと寿命に影響することになるだろう。次に、産卵数と実際に育っているヒナ数と大きく隔たりがある場合には、餌不足によるヒナの餓死や親鳥による子殺しが起きる。その場合は、親鳥が必要以上に卵を産んでしまっているわけで、生息環境の餌量を知る一助になるのである。餌量に不足がない場合でも、過密から「あぶれた個体」による子殺しも起きる。この場合には私たちは、コウノトリの社会的状況をいち早く察知する一助となり、野生復帰に正しい判断を下すことができるだろう。産卵数が自分たちのなわばり内の餌量を反映しない一つの理由としては、冬の間の餌場での人工給餌の影響が考えられる。産卵数が解らないとこうした判断ができないので、いずれにしても産卵数を知る必要がある。

ドローンは、いたずら半分に使われるのではなく、このような科学の面でも、実用の面でも正しくつかわれると、私たちに多くの恵みを与えてくれる。今回のことを受けて、ドローンそのものに大きな関心が寄せられ、機械の改良や法律の整備がなされようとしていることは大変いいことだと思う。郷公園も、ドローンの使用を含めて、あらゆる安全な方法を駆使してコウノトリの産卵数の確認をしていきたいものだ。

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