園長日記
6月10日。養父市八鹿町で飼育されてきたコウノトリのオス幼鳥2羽の放鳥式典が行われた(園長日記No.9、No.12を参照)。伊佐小学校の児童たちが、これまでの観察結果をパネルを使って発表した。放鳥式典とは言うものの、天井の網を開いても、鳥たちはすぐには外へは飛び出さず、集まった人たちの大空に雄飛する姿を見たいという期待を裏切った。「放鳥」というネーミングが、直ちに舞い立つという印象を与えてしまうので、「天井解放式典」といった方が正確かもしれない。
これに合わせて、伊佐小学校では昔のコウノトリに関する「お宝展」をやっていた。そのなかに、喜久屋さんという食堂のご主人が作った「八鹿八勝」という包装紙が展示されていた。八鹿の八つの景勝地を絵で紹介したもので、「松上の鶴」という須留喜山を背景にした鶴山の絵があった(写真1)。そこには次のような説明文がついている。
鵠(こうのとり)はこの附近の繁殖地を除いて全国にその跡を絶ってしまった
現に、天然記念物に指定された
春霞の候松上に巣ごもりし田植え歌を聞きつつ巣立ちする
鵠が白い鵬翼をひろげて円山川流域を飛翔する姿はまことに優雅そのもので「平和郷八鹿」を象徴している
近年伊佐の松林に巣を営み遠近各地より一瓢を携えて観覧するものが多い
古諺に「松上の鶴は千年の齢を保ち巣立ちを見れば長寿する」とか
とあり、最後には「八鹿駅前より出石行バスに乗り伊佐村浅間にて下車し徒歩約二丁」と書き加えられている。この包装紙が作られたのは、「現に、天然記念物に指定された」とあり、豊岡の鶴山から伊佐の鶴山に天然記念物指定が移ったのが昭和26年だから、それ以降ということになり、そんなに古い話ではない。さらに地図も添えられており(写真2)、須留喜山や鶴山の位置がきちんと書き込まれている。地図に赤丸をつけた場所が今回の「放鳥拠点」である。だから、正に昔の鶴山の隣りに「放鳥拠点」は作られたことになる。これは国際自然保護連合(IUCN)の定義、絶滅した元の生息地に放鳥する「再導入(reintroduction)」によく一致している。
式典のご挨拶でも申し上げたが、今回の放鳥の意義は2つあると思う。1つ目は、これまでの繁殖地域である豊岡市の外でソフトリリースが行われたことで、コウノトリ個体群を但馬全域に広げて行く意義がある(図1)。さらには京丹後市のように兵庫県外へ繁殖地域を自力で広げて行く助けになることが期待される。2つ目の意義は、養父市が主体になって、この事業を予算化して、飼育員をつけ、餌代を出し、積極的にやってこられた点であろう。もちろん郷公園はできるだけのお手伝いはしたつもりである。来月に迫った朝来市の放鳥の場合も、まったく養父市と同じように取り組んでこられている。こうした取り組み方は、いわば「養父・朝来方式」とでも言える初めての方式だろう。今後、さらに拠点を広げて行くには、この方式が地域の盛り上がりを得るにも、もっとも現実的なやりかただと思っている。越前市と野田市の試みは、現在のところは病気などの危険分散を目的とした「飼育施設」に文化庁は位置付けている。ついでに書くと、図中の小さい点は、たまさか若者が出かけて行く「遠足」を示したつもりだ。これへ、大陸から稀に「ハチゴロウ」や「エヒメ」のような野生個体がやってくる。
この1枚の図は、わが国のコウノトリの現状をわかりやすく示したものだが、大きな問題が出始めている。それは京丹後市の例のように、コウノトリたちが兵庫県の外へ自力で広がり始め「兵庫県立コウノトリの郷公園」の埒(図中緑色部分)をすでに超え始めていることである。郷公園は兵庫県のものだから、その予算を使って行政の範囲外の事業をすることはできない。全国的視野から見て今後コウノトリの野生復帰をどうしたらいいのか、いわば「全国版のグランドデザイン」が必要な時が来ていることを、京丹後市の五つ子の問題で強く感じた。
6月13日(木)午後0時7分、1羽目(オス・なごみ)の飛び立ちがあった(写真3)。しかし、この「なごみ」が繁殖に参加するのは、性成熟する約3年後である。私たちは気長に待たねばならないのだ。
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