園長日記
4月13日、戸島の巣塔で子育て中の3羽のヒナが殺された。殺したのは、付近を徘徊している独身のメスだとされている。私たちから見ると大変おぞましい「子殺し」についてこの際考えてみたい。子殺しを考える場合、殺し屋から見て二つに分けてみると整理しやすい。(1)自分の子供を殺す場合と(2)他人の子供を殺す場合である。
まず自分の子供を殺す場合だが、これは両親、または片親が殺す。動機は主として餌不足で、巣内の子供をすべては育てきれない場合は一番小さい子を殺す。それでも、まだ餌が足りないと、その次に小さい子を殺す。言わばこれは「口減らし」である。小さい子供が殺されるのは、殺すならそれまでの投資が少ない子供から抹殺する方が無駄が少ないからである。それなら、育てられるだけの子供の数を最初から産めばよさそうなものだが、餌量が予測できない場合は、多めに産んでおいた方が得策だ。なぜなら、餌が多ければ、多めに産んだ子供のすべてを育てきることができるからである。要するに小さな子供は餌不足の際の「安全弁」として機能する。少ない餌を全員の子供で分け合って全滅するよりはましだという戦略だろう。残酷に聞こえるが、これが動物が生きて増えて行く術なのである。殺すといっても、直接つつき殺すのではなく、一人で生きていけない子供を巣の外に捨ててしまうのも結局死に至らしめるので、これも子殺しである(写真1)。こうした現象は、カモメ類、ハイタカ、コウノトリ、ヘラサギ、オオバンなどで報告されており決して異常な行動ではない。餌不足に際し、殺し屋が親ではなく、兄姉が弟妹を殺すのは、ワシ類、サギ類、カツオドリ類などで知られているが、これの意義も同様である。
次に、親以外の個体が、他人の子供を殺す場合だが、多くの場合は「配偶者」を獲得する戦術として理解されている。コウノトリの場合はメスの方がオスより数が多いので、どうしてもメスが余ってくる。独身のメスは、すでにペアになって子育てしているつがいのヒナを殺し、そのペアの解消を目論むわけだ。言わば嫌がらせ戦術だ。もちろん、ライオンやハヌマンラングールのように独身オスも、これをする場合があるが、その場合は、以前からいる子供を殺した方がメスが早く発情し、自らの子供を残しやすいという利点がある。すでに述べたようにコウノトリの場合は独身オスはほとんどいないので、メスがこうした子殺しの主体になるようだ。鳥類では、一妻多夫性のレンカクでメスの子殺しがみられている。
以上の他にも、「なわばり」や「巣塔」を獲得するための子殺しや、パニックを起こしての子殺しもコウノトリでは観察され始めているが、詳細はこれからの残された問題である。いずれにしても、人間から見ると「子殺し」というおぞましい現象も、動物界では進化史上普通に起きている現象であり、人間の尺度で「道徳感」や「倫理感」を動物に当てはめるのは間違っているようだ。
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