公立大学法人 兵庫県立大学大学院大学院 地域資源マネジメント研究科

園長日記

(015)永留の五つ子

京丹後市永留のコウノトリのヒナは、兵庫県外で初めて自然繁殖したものとして貴重な存在である。五つ子だったこともマスコミの興味を引き(写真1)、微笑ましいニュースとして報道された。そのヒナが郷公園に一時収容されることになった。この問題の本質について、今回は書いてみたい。

試験放鳥の5年間の間に、26ペアが、やり直しを含め29回繁殖を試みた。これらの結果を分析すると、一腹産卵数は2卵から6卵で、普通は3卵か4卵だった。最大の6卵というのは、規則的に人工給餌されていたペアだった。産卵開始は2月から4月までだったが、2月という早い産卵は、やはり人工給餌されていたペアだった。自然状態でのペアは3月になってから産卵した。平均巣内ヒナ数は、1.7ヒナであり、その内で平均1.2ヒナが巣立った。今回の5羽がいかに異常に多いかお分かりいただけるだろう。親による子殺しが3巣で見られ、これによりヒナが死亡したが、人工給餌を受けている巣で子殺しが多く起きた。

これらの結果は、郷公園が発行している科学研究誌『野生復帰』の第2巻、第1号の江崎・大迫による「再導入されたコウノトリの繁殖期と繁殖成功、および給餌と人工巣塔の影響」に詳しく報じられているからHPでご覧いただきたい。ここからわかることは、過剰な人工給餌はコウノトリの、特にメスの栄養状態を促進し、繁殖を早め、産卵数を増大させ、それらがすべて孵った場合には、自然状態での親のヒナへの給餌能力をはるかに超えてしまい、その結果「子殺し」まで起きてしまうことを示している。永留でのオスの「八べえ」の死亡事故も、通常では行かない採餌場へ入り込み、鹿の防除ネットにかかって死亡した可能性がきわめて大きい。

今回、「コウノトリと共生するまちづくりネットワーク」から、456名の嘆願署名を添えた「コウちゃんと5羽のヒナを助けて」と題する、オス親が死んでしまって大変そうだから、残されたメス親と子どもたちを救ってほしい旨の嘆願書が、私と京丹後市長あてに届いた。そこで、関係機関と十分協議した結果、関係者には、こうした問題点をすべて理解していただいた上で、ヒナたちを一時的に収容することになったのである。これはこれで、今回コウノトリにしてやれる最善のことだと私は思うが、今後のことを考えると、コウノトリに対する人間の愛情から発した行為が、結果として彼らを苦しめることになることをすべての方々によく理解していただき、今後は野外での給餌をしないようにしていただきたいと思う。

偉そうなことを書いたが、郷公園も謙虚に反省しなければならないことがある。それは、そもそも野外での給餌を始めたのが、郷公園自身であるからだ。「お前たちのやったことを、やって何が悪い」という声が聞こえてくるような気がする。しかし、日本、恐らく世界で初のコウノトリの放鳥・野生復帰を行うに際し、念には念を入れた、当時として想定される最良の策が最低限の野外給餌だったのだろう。それが、試験放鳥期間を終了してみて、その結果を分析すると、このような結果が出たのである。野外での給餌を、餌の少ない冬季に、計2回のべ64日間やめても、餓死することなく彼らがやっていけるということも、前掲研究誌の第1巻、第1号の「野外コウノトリへの実験的な給餌中止とその効果」(大迫・江崎 2011)ですでに実証されている。コウノトリの野生復帰には、5年間の試験放鳥期間の知見をもとに、変えなければならないことと、変えてはならないことがある。それをまとめた指針が「コウノトリ野生復帰グランドデザイン」なのだ。マスコミも、コウノトリの五つ子を、頑張れ頑張れの微笑ましいニュースとして扱うことなく、根本的解決に向けて真の問題点を指摘してほしいものだ。

20世紀を代表するアメリカの神学者ラインホルド・ニーバーは、「全能の神よ、われらに変えることのできることを変える勇気を、変えることのできないことを受け入れる冷静さを、そして、両者を識別する知恵を与えたまえ」と言っている。

(写真1)永留の巣塔の五つ子たち(撮影:高岡 正)

写真1 永留の巣塔の五つ子たち(撮影:高岡 正)

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