園長日記
3月30日。佐渡島では「トキまで、2センチ!?」という幟旗(のぼりばた)がはためき、いたるところにポスターが貼られていた(写真1)。この日、佐渡市は平成23年9月から、3億6千万円をかけて建設中だった、トキの観察施設「トキふれあいプラザ」をオープンした。この施設はトキが飛翔可能な大型ケージを整備し、その中により自然に近い環境を再現することで、飛翔、採餌、巣作りなどトキの生態を間近で観察できるものである。ワンサイドミラーを使った観察窓が売り物であり、この窓を通じて、トキが観察者に気づかないで、2センチまで近づいてきてドジョウなどを食べる行動を見せてくれる。つまり、2センチとはガラスの厚さなのだ。至近距離から見るトキの姿はさすが迫力に満ちていた(写真2)。
ふれあいプラザの観察会もさるものながら、2時30分から、両津文化会館で催されたオープニングイベント中の「創作能」は大変感銘深かった。当日の演目は、シテ津村禮次郎の「トキ」であった。
その概要は、村人たちが「おらがいっちにくい鳥はどうとさんぎと小雀」などと鳥追い歌を歌い生やしているところに、「トキはこの島にいないのにそれは無駄な歌だよ」と里人がいう。そんなところに一人の少女が現れ、昔母親から島中にトキが「清く群れ飛んでいた」と聞かされたといって、荒れた島の景色を嘆いている。不思議に思った里人がなおも詳しく尋ねると、少女は保護されて死んでいったトキの名をあげ、自分もトキであることを明かす。里人はかつてキンを捕獲した有様をかたり、今また少女のトキを捕まえようとする。少女は「佐渡に当たり前にあるもの、空気、水、土、電気。当たり前の存在トキ」と告げ、トキの姿になって大きく羽ばたき、トキがこの島に群れ飛ぶ姿を見せてほしいと願って、村人たちと戯れながら舞い、また夕焼けの空に消えてゆく(写真3)。
もともと、佐渡は世阿弥が流された島であり、佐渡の文化としての能は歴史があるものだが、佐渡の能は市井の人々が舞い、謡い、観るものに変化してきたのが最も大きな特徴だそうだ。それは、ちょうど地域の人たちが「ときの野生復帰」に取り組んできた姿勢にも通ずるものがあるのだろう。シテが着る衣装も鴇色ですばらしく、まさに佐渡の「トキの野生復帰」にふさわしい演目で私は大満足した。
(注:どう=トキ、さんぎ=サギ)
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