公立大学法人 兵庫県立大学大学院大学院 地域資源マネジメント研究科

園長日記

(048)えっちゃん、おめでた!

No.44で「えっちゃん結婚か?」と書かせてもらったが、ついにヒナが生まれた(写真1)。

ヒナが生まれた巣を支えている台は、2006年に関西電力によって設置されたものである。野生復帰が開始された翌年の2006年には、早くもひと組のペアが誕生した。どこに巣を造って産卵するか注目していたが、昔のような大木の樹上ではなく、電柱の電線をつなぐフレームに巣材を運び始めた。電線には数1000ボルトの電気が流れている。線が被覆されているとはいえ、穴が開いているところに触れると、コウノトリも一瞬であの世行きとなる。巣の土台は、その危険な電線から離して特別に設置された。これは、当時、野生復帰後の最初の野外繁殖を成功させたい一心でとった対策であったが、そのペアは気に入らず結果は失敗に終わった。

コウノトリは、なぜか電柱に巣を造りたがる。コウノトリの安全と事故による停電を防ぐために、その都度、関西電力の協力で巣材の撤去と鳥が止まれない対策を続けてきた。そうした対策の中で、電柱で営巣させようとした方法が3例ある。一つめは、バイパスの電線を新たに張り営巣電柱を通る電気を迂回させる鳴門市で採用した方法である(No.47参照及び後述)。しかし、設置工事の影響のためか、豊岡ではペアはその電柱を離れてしまった。二つめは、手前の電柱で電気を止め営巣電柱を安全に保つ方法である。これは大きな工事がないため、ペアは放棄することなく繁殖を全うすることができた。三つ目は、えっちゃんの巣と同様に、危険な電線から離れた場所に仮設のフレームを設置する方法である。今までに1箇所で実施して、うまくいったことがある。今回の河谷の電柱も、これと同様の対策による巣であるが、なんと9年越しの成功である。感激もひとしおだ。

孵化したヒナたちは、自分の巣のこうした事情も知らずに電柱の上でスクスク育つであろう。しかし、電柱の巣を経験したヒナは、自分が成鳥になった時、他の個体以上に電柱を選ぶのでないかと思うと、少し先が思いやられる。全国的に電力8社との協議がこれからは必要かもしれない。すでに5月21日には電力8社や電源開発、電気事業連合会などと国土交通省水管理・国土保全局との懇談会が東京であって、河川環境課から促されて、四国電力(株)から「配電設備での事例であるがその他関係設備でも有り得る事象であることから、電力各社へ情報共有するものである」として,鳴門のバイパス工事の事例が紹介されている。

その内容は議事録によると、『徳島県鳴門市大麻町において、国の特別天然記念物であるコウノトリが、当社設備である電柱上に営巣を行っていることが確認されました。当社では、営巣箇所を停電状態にするため、平成27年5月11日(月)14時頃に仮の電線設備を水田上空に設置する工事を行いました。今回は、徳島県と協議したところ「営巣を残置してもらいたい」との意向があり、営巣箇所が配電線の角にある電柱であったこと、仮の電線を施設する水田の地権者の協力が得られたこと、工事をするための負荷側が停電可能な状態であったという条件が揃ったことから、対策工事が実施できました。今後、このような事例があった場合については、ケースバイケースであることから、県と協議しながら対応したいと考えています』との前向きな報告であったようだ。先行きは気がかりだが事態は良好な方向へ進んでいるように感じられる。

ともあれ、先の心配はさておいて、福井県の方々には、本当の「おめでとうございます」を改めて申し上げたい。

(写真1)小さなヒナが、えっちゃんの嘴の下に顔を出した(2015年5月30日)

写真1 小さなヒナが、えっちゃんの嘴の下に顔を出した(2015年5月30日)

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