公立大学法人 兵庫県立大学大学院大学院 地域資源マネジメント研究科

園長日記

(038)赤石のメス、その後

赤石の巣塔では、劇的なことが次々と今年起こった。昨年までのこの巣塔の夫婦は姉弟であり、近親婚の子供が生まれることを阻止するため、巣塔をたたいたり、巣台にカプセルをかぶせて産卵を妨害するなど、人間の介入を繰り返した(園長日記No.7参照)。

それでは、根本的な解決にはならないとして、5月にはメス個体が捕獲され隔離収容された(園長日記No.33参照)。およそ2週間後には、目論見通り新しいメス(J0017)が入り、めでたく正常な夫婦が形成されたのだが(園長日記No.34参照)、この虎の子のメスに異変が起きてしまったのである。

それは8月30日の15:00頃のことだった。NPOコウノトリ湿地ネットから、市内の住民から、「豊岡市城崎町来日地内の水田脇の水路でコウノトリが負傷している」という情報が寄せられたと、郷公園に連絡が入った。船越ら公園職員が現地に出向いたところ、防獣ネットに絡まっているJ0017メスを確認した。翼から出血もあり、応急処置とケガの状態を確認するため捕獲して郷公園に搬送した。17:15、応急処置として、右翼の翼角付近の擦り傷の洗浄と消毒、抗生剤入りの軟膏の塗布などを行うが(写真2)、右翼の先端を開こうとしない状態が続いた。三橋獣医師により、念のため5日間の抗生物質投与を続けた。

9月11日(木)には、飼育下のJ0017を再度捕獲し右翼の状態を診察した。その結果、右翼を広げないのは、右前腕部の筋肉の損傷が原因の可能性があり、完治まではまだ時間がかかると判断されたので飼育を継続した。

9月18日(木)には、右翼の動きが改善され、軽い飛翔を行うのが観察された。その後、経過は良好だったので、10月2日(木)10時に、赤石地区で解放し、飛翔するのを確認した後、12時頃には、J0426♂と無事合流して、このつがいはめでたく、元の鞘に収まったのである(写真2)。

(写真1)手術台で応急処置を行う

写真1 手術台で応急処置を行う

(写真2)怪我が治って無事、元の夫と合流したJ0017メス(手前)

写真2 怪我が治って無事、元の夫と合流したJ0017メス(手前)


ところで、郷公園では一旦野生に戻したコウノトリは「野の鳥」として原則的に手を触れない方針である。しかし、(1)個体識別のため、主には巣ないビナ期に脚環を装着する場合。(2)当該個体を収容し治療することが、野外個体群の維持・再生に有益である場合(つがい個体の収容治療、近親婚解消、脚環の不具合解消など)。(3)シカ除けネットなどに絡まるなどの一時的拘束状態にあり、拘束がなくなれば再び自力で野に帰る、あるいは、たとえ外傷があっても少しの治療を加えることにより治癒可能で、自力で野に帰ることができると判断される場合。(4)これらの判断は、その都度、地域住民の思いに配慮し、慎重に行うことにしている。

話は別だが、今回のケースだけでなく、最近、コウノトリが防鹿ネットに絡まって死傷する事例が増えている。鹿の個体数を減らす抜本的な方策を地域とも協議しながら積極的に進めていくことが急務であろう。豊岡市コウノトリ共生課では、9月22日に、野外コウノトリが防獣ネットに絡まる事故を見かけた場合の対処の仕方についてお知らせとお願いを出している。

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